第16回(最終回) 意思能力の有無と成年後見等の債権回収への影響
※画像をクリックするとPDFデータが開きます。
第16回 意思能力の有無と成年後見等の債権回収への影響
当JAは、Xさんに対し、平成26年12月、500万円を融資しました。その際、Xさんの自宅に抵当権を設定し、友人のYさんに保証人になってもらいました。ところが、Xさんは認知症を患って物事を理解する能力がなくなったため、平成28年6月に長男Aさんが成年後見人になっています。現在、前記の貸金の残高は450万円なのですが、Aさんから、「融資時点ですでにXには物事を理解する能力がなく、融資は無効だったのではないか」と言われています。
平成26年12月の融資の際は、次男BさんがXさんに自筆で署名・押印してもらっています。融資金の使途については、自宅のバリアフリー化の改修費用と聞いていたのですが、回収は行われずにBさんの事業の支援に使われたようです。そして、Bさんは事業に失敗して行方不明になっているというのです。
このような場合、①融資が無効になるのか、②無効になった場合に当JAの貸金債権はどうなるのか、③無効にならない場合でも、Aさんが成年後見人になったことで当JAの債権回収にはどのような影響があるのか悩んでいます。
<解説>
1、意思能力がなければ無効
融資課長
融資した当時は成年後見の開始前ですし、Xさん本人に来店してもらって、借用証書等には自筆で署名・押印してもらっていますので、無効ということはないと思っているのですが…。
弁護士
契約など種々の法的効果を生じさせる行為が有効になるのは、その法律行為が有効になるのは、その法律行為の内容を理解し判断する能力があってこそです。そのため、そのような能力、すなわち意思能力がなければ、契約書に署名・押印していても契約は無効となってしまいます。
融資課長
意思能力と成年後見制度の関係は、どのように考えればよいのでしょうか?
弁護士
意思能力がない人の行った契約等は無効となり、不相当な契約で財産を失うことを防ぐことができます。しかし、意思能力がなかったことの立証は容易ではありません。また、取引相手は、意思能力の有無が微妙な人との取引の方法に悩むことになります。
そこで、法律行為の判断能力が不十分な人を類型化して保護するために設けられたのが成年後見制度なのです。
融資課長
なるほど。もう少し詳しく教えてください。
弁護士
判断能力を欠く常況にあれば「後見」、著しく不十分であれば「保佐」、不十分であれば「補助」の開始を家庭裁判所で審判してもらえます。審判がなされれば、各類型に応じて法律に定められた手続きが守られていないと、本人や成年後見人等は、契約等の取消しを主張することができることになります。
融資課長
では、意思能力がない状態なのに、後見が開始されていない場合はどうなるのでしょうか?
弁護士
先ほど述べた原則により、意思能力がなかったのであれば、契約等の法律行為は無効になってしまいます。
(続きは書籍をご覧ください。)
債権管理回収の基礎固めについてはこちらから
企業法務に関するお悩みの方はお気軽にご相談下さい