第13回 書替えの注意点と配当要求・剰余金差押えによる回収
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第13回 書替えの注意点と配当要求・剰余金差押えによる回収
Xさんは、自宅の土地建物と田を所有しており、息子Zさんに田を贈与して稲作を経営移譲し、自分は小規模な
養豚を行っていました。JAの債権と保証・担保の状況はつぎの通りです。
①Xさん:豚の餌を、Aさんを保証人として継続的に供給
②Zさん:農機具代金300万円を、Bさん・Cさんを保証人として平成25年12月20日に融資
③Xさん:自宅に極度額500万円・債権者はAさん・被担保債権の範囲は消費貸借取引と売買取引の根抵当権を設定
Xさんは平成28年1月5日に死去し、相続人である妻YさんとZさんの間で「自宅等の遺産はすべてZが相続・養豚は廃業・豚の餌代金(100万えん)はZが支払う」という協議が整いました。同年3月3日には自宅がZさん名義に相続登記され、その後、つぎのような証書貸付への書替えを行いました。
❶平成28年5月6日:①の餌代金100万円をZさん名義の証書貸付に書替え(保証人はXの妻Yさんとする)
❷平成28年5月13日:延滞となっていた②の貸金の残金280万円をZさんを借主とする証書貸付に書替え(返済条件を緩和し、さらに保証人はCさんが死亡していたのでBさんのみとする)
同年6月になり、4月7日に自宅がクレジット会社甲の差押えを受け、当JAにも4月15日には裁判所から債権届出の催告書が届いていたことが判明しました。配当要求の終期は6月30日でしたので、慌てて上記❶❷の貸金の債権届出を行いましたが、裁判所から「根抵当権が確定した後の貸金なので担保されない」との連絡があり、どうしたらよいのか悩んでいます。
<解説>
1、書替えの法的性質
融資課長
当JAの二口の貸金は、この根抵当権で回収できると思っていたので、担保されないとなると困るのですが…。
弁護士
どのような債権届出を行ったのですか?
融資課長
裁判所の記載例を参考に、❶「平成二八年五月六日付け消費貸借:元金一〇〇万円」、❷「平成二八年五月一三日付け消費貸借:元金二八〇万円と記載しました。
弁護士
それでは、裁判所から「担保されない」と言われてしまいますね。
融資課長
どうしてですか?
弁護士
JAが行った債権届出では確定後に発生した債権と見られるからです。本件の根抵当権について、JAは、四月一五日に届いた債権届出の催告書でクレジット会社甲による差押えを知ったわけですから、それから二週間の経過で確定します。(民法三九八条の二〇第一項三号)。確定後に発生した債権は担保されません。
融資課長
確定後に新たに融資したのではなく、確定前からの債権・債務を書き替えただけなのですが、担保されないのでしょうか?
弁護士
書替えによる貸金は、法的には「準消費貸借契約(同法五八七条)は、返還を約束して金銭を授受するものですが、準消費貸借契約は、すでに発生している債務を金銭の授受なく法非貸借にするものです。
純消費貸借契約については、根抵当権の設定登記の際、被担保債権の範囲には、”一定の種類の取引”として「準消費貸借取引」の登記が受け付けられていないこともあり、消費貸借取引では担保されないと考えられています。
2、書替えと担保の関係
融資課長
なるほど。しかし、書替前の債権は、被担保債権として登記されている売買取引・消費貸借取引に該当しますが、それで担保されることにはならないのでしょうか?
弁護士
一般的には、書替前の旧債権と書替後の新債権には同一性が…
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