第12回 債務者等死亡時の注意点
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第12回 債務者等死亡時の注意点
畜産農家のXさんは、妻に先立たれていますが、長男Yさん・次男Zさんがおり、同居しているYさんとともに養豚業を行ってきていました。
当JAの、Xさんに対する債権と保証・担保の状況はつぎのとおりです。
・友人Aさんの連帯保証の下、豚舎建設資金1,000万円の融資。
・友人Bさんの連来保証の下、極度額や期間を定めない知久さん公売取引約定書を締結した餌の供給。
・親戚のCさんの土地に極度額2,000万えん、被担保債権を消費貸借取引および売買取引、債務者をXさんおよびYさんとする根抵当権の設定。
そのXさんが最近亡くなったのですが、相続人であるYさんから、「Zと話し合った結果、『養豚業の後継者であるYがすべての財産を相続し、JAへの負債もすべてUが相続して責任をもって支払い、Zに迷惑をかけない』との遺産分割協議が成立したので、XのJAとの各種取引や、債務の名義を私(Y)に変更してほしい」との依頼がありました。
JAは、Yさんの依頼に応じて名義変更し、保証・担保とも今までのままで、Yさんと取引を継続しようと考えていたところ、つい最近になってXさんが亡くなる前にAさんもBさんも亡くなっていたことが当課の職員Hの調べでわかりました。そして、Cさんも高齢のため、債務者や保証人・物上保証人が死亡した場合に、当JAの債権や保証・担保にどのような影響があるか、XさんからYさんに名義変更しても特に問題はないのか、課内での対応についての意見がまとまらず悩んでいます。
<解説>
1、債務の相続
融資課長
債務者が死亡すれば債務も相続の対象となるはずですので、JAはXさんの相続人に対して債務を請求できると思うのですが、特定の相続人Yさんのみが債務を相続するという遺産分割協議が成立した場合、Zさんには請求できなくなるのでしょうか?
弁護士
債務は、法定相続分に応じて分割して相続され、付されていた保証や抵当権等の担保もそのまま効力を有するのが原則です。
その分割して相続された債務を、遺産分割で「特定の相続人がすべて支払う」とするのは、「特定の相続人が、他の相続人が相続した債務を引き受ける」ということですが、債務者である相続人がそれを自由に決められるとなると、債権者は困る場合があるのです。
融資課職員H
どのような場合ですか?
弁護士
例えば、Zさんには支払能力があるがYさんいはないという場合、Yさんが債務引受けしてZさんに請求できなくなると、Zさんから回収可能だった金額が回収不能となるリスクが高くなってしまいます。そこで、Zさんの支払責任を免除するような「免責的債務引受」は、責任財産の変動を伴い債権者の債権回収に影響を与えるため、債権者の承諾がなければ債権者に対抗できないのです。
融資課職員H
なるほど。
弁護士
ですから、今回のような遺産分割協議が成立したとしても、JAがそれを承諾したのでなければZさんには法定相続分である二分の一の金額を請求できます。
2、債務引受の保証や担保への影響
融資課長
JAの事務手続が簡便になるので、Yさんの依頼に応じてJAの各種取引や債務者の名義をXさんからYさんに変更しようかと思っていたのですが、何か問題があるでしょうか?
弁護士
Yさんの依頼に応じるということは、ZさんからYさんへの免責的債務引受を承諾するということになりますが、保証人や物上保証人の主債務者への求償権にも影響…
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