第10回 そもそも債権とは何か
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第10回そもそも債権とは何か
当JAは2年前の5月、 Aさんに中古自動車購入資金100万円を融資しました。 Aさんは、高校を卒業したばかりの18歳でしたが、同年4月に就職しており、両親は「社会人になれば自動車も必要だろう」とAさんが融資を受けて購入することに同意しました。
月々の返済額はAさんの毎月の給料で無理なく返済できる金額であり、当JAは保証人を付さずに融資しました。これは、父親のBさんが当JAに1,000万円以上の貯金を有していたため、万が一Aさんが返済困難になった場合でもBさんが代わりに返済してくれるだろうと安心した上でのことでした。
ところが、今年1月にAさんが就職した会社が倒産した上、 Aさんは倒産前の激務で体調を崩して入院してしまい、当JAへの返済ができなくなりました。
この4月、新年度の異動で当課に配属された若手職員のHが本件の回収を担当しています。
Hが、 Bさんに対して、 Aさんの代わりの返済をお願いに行ったところ「Aに『社会人として親には迷惑はかけない』と言われて自動車購入に同意したのであり、 Aに代わって返済するつもりはない」と断られてしまいました。
Hは「親なのに無責任だ。 Bさんに請求する方法はないのか」「Aさんが購入した自動車を売却し、返済にあててしまえないか」などと憤っているのですが、私からは法律の観点から正確に説明できず、悩んでいます。
<解説>
債権とは何か
相談者A
この春に融資課に配属された若手Hを連れてきました。今回が初めての債権回収担当です。
相談者H
Hです。よろしくお願いします。さっそくですが、 Aさんが返済できなくなったとき、親であるBさんが代わりに返済する義務はないのでしょうか?
弁護士
Hさん、その前に・・・・・・。 JAは今、 Aさんに対して貸金債権を有しているわけですが、そもそも債権とは何かわかりますか?
相談者H
「お金を払え」と請求できる権利でしょうか?
弁護士
「貸金や売買代金などのお金を払え」と請求できる権利はもちろん債権ですが、債権とは、特定の人に一定の行為を請求できる権利といわれており、もっと広い意味をもちます。
例えば、売買契約を締結すると、売主は買主に対して「代金を支払え」という債権をもつことになりますが、買主は売主に対して「売買の目的物を引き渡せ」という権利をもつことになりますね。
この「目的物を引き渡せ」という権利も、特定の人である売主に、目的物を引き渡すという一定の行為を請求できる権利ですから、こちらも債権です。
Hさんが融資課で担当する債権の管理回収は、その債権のうちの貸金債権なのです。
相談者H
なるほど。
2.債権は債務者に対してしか請求できない
弁護士
「債権」という権利に対応する義務を「債務」といい、債権をしている人を「債権者」、債務を負う人を「債務者」というわけですが、債権は、特定の人に一定の行為を請求できる権利ですから、債権は債務者に対してしか請求できない」という基本的な特色があります。
相談者A
当たり前のことですね。
弁護士
そのとおりです。ところが、実際にはこの当たり前のことを忘れて悩んでいることも多いものです。
今回のJAのAさんに対する貸…
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