第8回 債権届出の催告・充当・任意売却の注意点
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第8回債権届出の催告・充当・任意売却の注意点
当JAは Xに対し、自宅と農地を共同担保として極度額を1,000万円、被担保権の範囲を消費貸借取引・売買取引・保証取引、債務者をXとする根抵当権を設定し、つぎの2口の融資を行いました。なお、農地の担保設定はJAのみですが、自宅にはJAより先にZ銀行の抵当権が設定されていました。
①平成22年11月12日:元金600万円、利息年5%、損害金年12%、保証人A
②平成23年6月21日:元金400万円、利息年4%、損害金年10%、保証人B
ところが、 Xは、事業に失敗して支払不能の状態に陥り、①②ともに延滞により期限の利益を失い、自宅についてZ銀行から競売の申立てをされました。
当JAは、裁判所から債権届出の催告を受けて債権届出を行い、平成28年2月24日には裁判所から300万円の配当を受けられる予定となりました。なお、同日時点での債権残高はつぎのとおりです。
①の貸金:残元金350万円、利息15万円、損害金30万円
②の貸金:残元金300万円、利息10万円、損害金25万円
配当金については、 Bから「金額が同じであるし、②の貸金の元金に充当してほしい」と強く要望されたので、借用証書の「JAは適当と認める順序方法により充当することができる」との条項によりBの要望どおり充当するつもりです。また、 ①の債権については、農地を300万円で買いたいという農家がいるので、任意売却と保証人からの弁済で回収しようと思っています。ただ、 Xは「後のことはすべて妻Yに任せる」と言い残して行方不明になっており、今後どのように手続きを進めたらよいのか悩んでいます。
<解説>
債権届出の催告が届いた際の注意
相談者
裁判所からの債権届出の催告について、以前悩んだことがあるのですが、被担保債権が0でも債権届出を行う必要はあるのでしょうか?
配当を受けられるわけでもなく、手問がかかるので放置しようとの意見もあったのですが・・・。
弁護士
他の債権者が競売申立をした不動産にJAが担保設定や仮差押えを行っていると裁判所から債権届出の催告が届きますが、債権が0の場合でも民事執行法五〇条一項で届出義務が課せられています。届出をしないと同条三項で損害賠償責任を負うこともあるので、必ず債権届出を行ってください。
相談者
JAが配当を受けなくても誰かに損害を与えるようなことはあるのでしょうか?
弁護士
例えば、 JAが一番で抵当権を設定しているものの、被担保債権は0の不動産について他の債権者が競売申立をした場合、JAが0で債権届出を行えば手続きが進行して配当が行われますが、その届出を行わないと、裁判所はJAの債権が全額存在していることを前提として手続きを進めることになり、競売は無剰余で取り消されてしまうことが起こりかねません(民事執行法六三条二項)。そうなると、申立債権者は手続費用等について損害を被ることになり、JAは損害賠償をせざるを得なくなるおそれがあるのです。
相談者
わかりました。今後は0でも悩まず債権届出を行います。
弁護士
それから、債権届出の催告により競売手続開始を知ることになります。それから二週間で根抵当権が確定する(民法三九八条の二〇第一項三号)ことをJAの関係部署に周知してください。
相談者
競売が開始した自宅の根抵当権が確定するだけでなく、農地の根抵当権も確定するのですか?
弁護士
共同担保の場合は一個の不動産に確定事由が生じれば全部の不動産について確定します(同条の一七第二項)。その後に発生する債権は根抵当権で担保されなくなるので注意する必要があります。
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