第1回 抵当権設定の際の注意点
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第1回 抵当権設定の際の注意点
【今回のお悩み】
Aの長男Bは、 A名義の土地(新田10番)の登記済証、実印と印鑑証明書を持って融資申込みに来店しました。
Bは、「この士地は、自宅の南側の道路沿いの土地で、
野菜選別作業を行う未登記の古い建物が建っているが、時価1,500万円はする。
Aは仕事が忙しくてJAには来られないが、私がJAから融資を受ける担保に入れることは承諾している。
必要書類のAの署名押印は私が代わりに行うので、この士地を担保に1,000万円融資してほしい」と言っています。
住宅地図を見ると、新田10番はA自宅の南側の土地で、県道に接しており、建物の記載がありました。
担保価値は十分なので、その士地に抵当権を設定してBに融資する予定です。
担当職員に抵当権設定証や委任状にA本人からの署名押印をもらうように指示したところ、
「長男BがAの実印等を持参してAが承諾していると言っているのだから、 Bの代筆で手続を進めてはいけませんか?」
と言われ、どのように説明したらよいか悩んでいます。
また、その他に注意すべき点はありますか?
<まずは○×問題にチャしンジ!>
―あなたはどう考える?その理由は?―
1 |
Aが、 Bのための担保設定と、 Bによる代筆を承諾しているのであれば、 Bの代筆による担保設定も有効である。 |
2 |
A直筆の署名と認印による押印より、 Bによる代筆とAの実印による押印、印鑑証明書添付のほうが安心である。 |
3 |
登記簿にAが所有者として登記されているのであれば、 Aの意思確認を行えば十分である。 |
4 |
住宅地図の番地と登記簿の地番が一致してれば、その土地に担保を設定すれば安心である。 |
5 |
担保価値のない未登記建物に費用をかけて抵当権を設定するのは意味がない。 |
<解説>
1、抵当権の基本
融資課長
抵当権設定については、手が不自由等の事情がない限り、本人に直筆で署名してもらうように指導してきていました。しかし、改めて代筆ではいけないかと聞かれると、自信をもって説明できません。どう説明したらよいのでしょうか。
弁護士
では基本に戻って考えてみましょう。融資の際に抵当権を設定して実行することが多いのはなぜでしょうか。
融資課長
返済が滞ってしまった場合、その不動産を判決等の債務名義なしで競売申立でき、配当から優先的に弁済を受けられます。抵当権を登記していれば不動産を他に売却されても競売申立可能で、担保価値のある不動産に抵当権を設定しておけば債権回収が確実となるからです。
弁護士
そうですね。ですが、そもそも抵当権が無効となってしまえば、無担保の債権となってしまいます。また、担保価値を見誤ると十分な債権回収ができなくなってしまいます。
そこで、不動産の価値を慎重に把握し、所有者をしっかり確認して本人と設定契約を締結し、登記を行うことが大切になってきます。所有者に無断で抵当権を設定してもそれは無効です。
2、所有者本人の直筆署名の重要性
融資課長
Aに代わってBに代筆してもらうと無効になるのでしょうか。
弁護士
本人が承諾しているのであれば法的には有効です。日常生活でも少額の普通貯金の払戻しなどといった取引は家族の代筆で済ませることがありますよね。
融資課長
では、本人の直筆にこだわる必要はないのでしょうか。
弁護士
代筆にしてしまうと、本当は本人が承諾していて有効な場合でも、後で「知らなかった」「承諾していない」と主張されて争いになったときに、抵当権が有効か無効かは、「承諾していた」「承諾していない」のどちらかを裁判官が信用するかによる微妙な…
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